もっともらしい科学の話と陰謀論

投稿者: | 2024-05-23

少し前に、紅麹のことが大きな話題になりましたね。小林製薬の紅麹の成分を含むサプリを摂取していた人が腎臓疾患で亡くなり、そのサプリが回収されただけでなく、紅麹を含む多くの商品も回収されたという話。紅麹原料に「意図しない」成分が入っていて、それが「プベルル酸」の可能性があるとのこと。でも、結局のところまだ原因はよくわかっていないようです。

私が疑問に思っているのは、そもそもどうやってこのサプリが原因だとわかったのだろうということです。サプリの成分を調べて、疑わしいものが見つかったとは言うけれど、それを調べる前からこのサプリが原因だということで調査が行われたのですよね。被害にあった人がすべてサプリを摂っていたからということなのでしょうか。そもそも、それらの人々に腎臓疾患が起きたのは、同じ原因だという根拠はあったのでしょうか。同時期にサプリを摂っていない人で腎臓疾患を患った人はいなかったのでしょうか。サプリが原因かもしれないとう仮説を立てたとして、たとえば動物実験をやるなどしてサプリが腎臓疾患を引き起こすことを確認したのでしょうか。他の要因は調査したのでしょうか。このサプリが原因でなかったと言っているわけでも、小林製薬を擁護するつもりもありませんが (私はどんな製薬会社もまったく信用していませんから)、どうやってそういう結論にたどり着いたのか、その辺の経緯を聞いてみたいものです。病気がウイルスや細菌のせいだと速攻で結論付けられるのと、どこか似たところがあるように感じます。ワクチンなどに関しては「相関関係は因果関係ではない」と言うのに… (そういう意味では、ワクチンで腎臓疾患は起きないんでしょうか)。

それと、どうもやたらと「紅麹」に焦点が置かれているのが気になります。たとえば NHK のこの記事には下の方に内科専門医の「紅麹そのものが悪者というわけでは決してない」というコメントが載っているのですが、そう言いながらも「紅麹菌の中には「シトリニン」というカビ毒をつくるものもあり、腎臓の病気を引き起こすおそれがあるとされています」と紅麹と腎臓の病気との関連を示唆するようなことが書かれています。サプリに使われていた紅麹は「シトリニン」をつくる種類ではなく、成分分析では「シトリニン」は検出されなかったらしいのですが、たとえばこの記事では、「また紅麹菌は全てが悪者ではなく、その中に毒性物質シトリニンをつくるのがいて、今般の事件の紅麹菌はたまたまこの物質をつくるものだったわけです」とシトリニンをつくる紅麹が原因だったと断定するようなコメントが載っています。「紅麹 = 危ないもの」みたいな印象を持ってしまっても不思議ではありません。サプリには他にも原材料がたくさん入っているはずなのに、なぜ紅麹原料ばかりを調べているのでしょうか。他の原料は調べたのでしょうか。製造工程で何かが混入した可能性はなかったのでしょうか。紅麹原料に含まれていた「意図しない成分」の「プベルル酸」は青カビから発生することがある物質だそうですが、この記事によれば「プベルル酸と腎臓疾患の関連は現時点では不明」と言っているのにもかかわらず、タイトルは「プベルル酸、「紅麹サプリ」から検出 抗菌作用も毒性強く」となっていて、いかにもこれが原因であったかのような書き方です。どちらも、自然界のものが人間に危険を及ぼすという刷り込みのような気がしてなりません。食中毒が起こったときにも、「レタスについていた大腸菌だった」とか、すぐに自然界のものが悪者にされます (私の今の理解では、細菌が病気を引き起こすことはありません)。自然界の物にも人間に症状を引き起こすものがないわけではないとは思いますが、化学物質の被害を隠蔽するために、ウイルスや細菌に濡れ衣を着せることがよく行われているのは事実です。因果関係がきちんと特定されていないのに、犯人扱いするのはやめて欲しいものです。

この話に関連して、この紅麹事件は小林製薬を叩くため/潰すためのものだという陰謀論めいた話も出回っているようです。たとえばこんなツイート。

「真に人のためになるものを作る純日本の企業は消そうとされる」というコメントも見ました。

その真偽は別として、私はこの「99.9% コロナウイルスを死滅させる画期的開発に成功している」というのと、このツイートに貼られていた動画に反応してしまいました。動画全編は YouTube にありました。

ウイルスが存在していないと理解していたら、「何だこれ?」と思いますよね。こんな映像見せられても、存在しないはずのウイルスを不活性化させるなんてできるはずがないので、何を撮影したんだろうと不思議です。この映像、大阪大学がコロナウイルスが細胞を攻撃しているところを 8K 映像に記録したという、サム・ベイリーがこの動画 (ムーンのにほん語さん翻訳) で取り上げていた話を彷彿させます。

それで、この実験がどんな風に行われたのかちょっと調べて見ました。それに該当するような論文は見つけられなかったのですが、小林製薬のサイトにこんなページがありました。
https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2021/211111_01/

最初の方に「試験管内の試験において」と、実際に人間の体内で効果があるのかを証明しているわけではないということは少なくとも断っています。5 つの新型コロナウイルス株を使ったようですが、こういう番号が付いているということは、遺伝子バンクに登録されていて、どこかから入手したものということです。たとえばこの最初の従来株 JPN/TY/WK-521 はどこから来たのか調べてみると、 (見つけるのにちょっと苦労しましたが) 次の論文で最初に分離されて遺伝子配列決定されたもののようです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7132130/

GISAID に登録されていて、ID は EPI_ISL_408667 (採取日 2020 年 1 月 31 日) です。日本でも、こんなに早くコロナ患者が出ていたんですね。他の論文でこの株を使って実験したものを見ると、この株は国立感染症研究所から入手したとあります。論文の著者の一部はこの研究所に属しているので、そこで保管されていると思われます。小林製薬もおそらく国立感染症研究所から入手したのでしょう。

この論文を見てみると、JPN/TY/WK-521 株の分離にはお馴染みの VeroE6 が使われています。正確には「VeroE6/TMPRSS2」となっているのですが、これはどうも TMPRSS2 という人間の遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え細胞株のようです。ご存知のように、こういう細胞株を使って培養したのでは、分離とは言えません。普通はウシ胎仔血清だとか抗生物質だとかを入れるのですが、この論文にはそういう詳細は書いてありません。日本の研究者による研究なんですけど、かなりいい加減ですね。そしてまたしても、RT-PCR を使ってウイルスの存在を「確認」しています。とにかく他のウイルス分離と同じように、細胞培養したものですから、ウイルスを分離したとはいえません。

こういう「ウイルス株」と言われるものはどうやって保存しているのでしょうか。そのまままぜこぜの培養液を保存しているのでしょうか。保存前に何か処理をしているのでしょうか。ちょっと検索してみたのですが、よくわかりません。とりあえずウイルスの保存方法としては、この文書によると、低温保存、凍結保存、凍結乾燥保存があるらしいです。

小林製薬の実験に話を戻しますが、小林製薬はこういう「ウイルス株」を入手して実験したわけです。しかも、またしてもミドリザルの腎細胞 VeroE6/TMPRSS2 を使っています。つまり、通常のウイルス学の実験とまったく同じわけです。

こういうことがまことしやかに報道され、それに陰謀論が抱き合わさっているのがなんとも興味深いです。こういう引っかかりどころ満載の話は、人の心を惹きやすいのでしょう。ヨウ素は体に重要な栄養素とも言われていますから、何らかの良い効果はあるのかもしれませんが、存在しないウイルスを不活性化することはありません。

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