字幕の修正および記事の更新について

投稿者: | 2024-10-08

現在、これまでにアップロードした動画の字幕を見直して、必要に応じて修正を行っています。すでに「The End of Germ Theory」の修正版をアップロードしました。それに伴い、このサイトの記事も徐々に更新していく予定です。この修正を始めた主な理由は、germ theory の訳を「細菌理論」から「病原体説」に変更することです。この用語の訳に関しては以前に記事にも書いていて、それ以降の動画では「病原体説」としていたのですが、それ以前の動画に関しては、すでに出してしまったものだし…、と修正せずにここまで来てしまいました。しかし、これに関して指摘を受けたこともあり、私の字幕動画の中で最も視聴数の多い「The End of Germ Theory」でタイトルからして「細菌理論」が使われているのはまずいと思い直したわけです。最初はさっと直して出せると思っていたのですが、見直してみると、germ theory の訳だけでなくほかにも間違いあり、訳がわかりにくいところあり、タイミングがおかしかいところもあり…。2 時間半を超える長い動画なので見直すにも時間がかかり、想定していたよりもかなり時間を要してしまいました。でも、修正して本当によかったです。思えばこの動画を訳したのは 2 年前。あれから私の知識も理解も多少は進化していると思いますし、改な気持ちで見直すことができたのは、価値があったと思います。これで、これから新しく発見してくださった方にも安心して視聴していただけます。すでに見ている方も、もしよろしければ復習がてら見てみてください。今後、他の動画についても徐々に見直して改訂していく予定です。これまで不適切な訳語を使用していたことをお詫びいたします。

germ theory の訳については、ぜひ Moon の日本語さんが書いた記事を読んでみてください。彼女の物事を認識する力、調査力には本当に感嘆し、自分ももっとそういう能力を磨かなければと思わされます。私があの動画を訳したときは、オンラインの辞書で germ theory を調べて、掲載されていた訳語をそのまま使っていました。それに対して何の疑問も持たなかったのは、「細菌」というものの認識が自分の中で間違っていたからです。Moon の日本語さんの記事からリンクされている別の記事もぜひ読んでいただきたいのですが、まさに「細菌」が bacteria の訳だという認識がなく、bacteria は「バクテリア」で、「細菌 = バイ菌」というとらえ方をしていました。germ theory という用語も、ウイルスの存在は証明されていないという議論に出会うまでは、聞いたことがなかった、あるいは聞いていたとしても記憶には刻まれておらず、あまりにも当たり前の事実であって、「理論」であったことすら知りませんでした。この辺をきちんと頭の中で整理して、言葉の意味を正しく理解することは重要ですね。

germ というのは、病原体という意味では学術的な言葉ではなく口語的な表現で、一般的によく人々が使う意味合いでは「バイ菌」が一番近い気がします。germ は口語的なのに、なぜ germ theory と呼ばれるのかは、前の記事にも書きましたが、germ には「胚」という意味や何かの起源、始まりという意味もあるので、そこから「病気の種、素」という意味で使われるようになり、そこから germ が病原体を意味するようになったわけです。そういうわけで、germ は汚いもの、悪いものというイメージが付いていますから、「細菌」と訳すのはまずいわけです。それなのになぜ、オンライン辞書で germ の訳として「細菌」が載っているのでしょうね。それで、書籍の辞書はどうだったんだろうと、手元にあった『ジーニアス英和辞典』 (改訂版 3 版、1996 年発行) を見てみると何と!

germ
1. 細菌、ばい菌、病原菌
2. 胚、芽、胚種

となっていました。さらに bacteria を引いてみると…

bacteria
バクテリア、細菌、ばい菌

と、bacteria にまで「ばい菌」という訳が当てられている。書籍の辞書ですでにこうなっていたとは…。インターネットの世界になってから始まった問題ではなさそうです。今手元にある英和辞典がこれだけなのが残念ですが、次回日本に行ったら、古本屋で昔に発行された英和辞書を見てみたいものです。もしどなたか古い英和辞典を持っていらっしゃったら、これらの言葉を引いて、訳語を教えていただけると嬉しいです。

bacteria は実は複数形で、単数形は bacterium なのですが、英語でも bacteria が単数形として使われることも多いようです。bacteria という言葉自体は、ウィキペディアによれば…

1828 年、クリスチャン・ゴットフリート・エーレンベルクが、顕微鏡で観察した微生物が細い棒状であったため、古代ギリシア語で「小さな杖」を意味する βακτήριον (baktḗrion)から造語し、ラテン語で “Bacterium” と呼んだことに由来する。

そうです。同じくウィキペディアによれば…

日本語の「細菌」の語の発案者は不明であるが、1895 年 (明治 28 年) には『細菌学雑誌』が創刊され、19世紀末には既に使われていた。

とのこと。ちなみに、中国語や韓国語でも (中国語は微妙に漢字が違いますが) 「細菌」が使われるらしいです。おそらく、bacteria の訳語として「細菌」という言葉が作られたのでしょうね。日本の細菌学の発展に大きく貢献したと言われている北里柴三郎は、「1885 年 (明治 18 年)、ドイツのベルリン大学へ留学」して「コッホととても仲良くなり、コッホに師事して大きな業績を上げた」とのこと (ウィキペディアより)。コッホというのはもちろん、パスツールなどとともに病原体説を固めるのに大貢献したあのロベルト・コッホです。さらにおもしろいのは、石黒陸軍省医務局長が「柴三郎にペッテンコーファー研究室に移るように指示したが、コッホは石黒と面会し、北里柴三郎という人物の期待の大きさを強調したので、石黒は異動命令を撤回した」のだそうです。ペッテンコーファーという科学者の名前は Spacebusters の動画に出てきたことがありますが、「近代衛生学の父」、「環境医学の父」とも呼ばれていて、緒方正規、森林太郎 (森鷗外) のドイツ留学時代の恩師だったそうです。ペッテンコーファーはコレラの発生理論についてロベルト・コッホらと対立して、コレラ菌が病気の原因ではないと主張して、コレラ菌を自ら飲んだことでも知られています (ウィキペディアより)。とにかく、日本で細菌学を発展させた科学者の一人である北里柴三郎がロベルト・コッホに師事していたこともあって、日本での細菌学は「病原体を扱う分野として成長を遂げてきた」 (ウィキペディア) という背景があります。つまり、「細菌」という言葉が使われるようになった最初のころから、「病原体」というものに強く結び付けられいていた、ということです。今でも「一部の細菌は病気を引き起こす」という考えが人々の意識に刻み付けられていますから、「細菌」の悪印象を覆すのは並大抵のことではないかもしれません。でも、少しずつでも正しい認識を持つ人が増えていけばいいなと思います。

もう二つ、私が勘違いしていた用語は「感染」と「伝染」です。従来は「伝染病予防法」と呼ばれていた法律の内容が、1999 年に施行された法律で「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に含まれるようになったのですが、それで「伝染病」という言葉が「感染症」に置き換えられたのだと、とすっかり勘違いしていたのです。でも、もちろん「感染」と「伝染」は意味が違います。独立行政法人、家畜改良センターの定義がわかりやすかったので、ここに引用します (リンクされている PDF の 2 ページ目)。家畜について書かれていますが、人間にも当てはまります。

細菌、ウイルス、寄生虫及びカビ等の微生物が、家畜の体内に侵入して、ある部位に定着し、増殖するまでの過程を「感染」と言う。その結果、家畜が生理的、形態的に異常な状態を起こした場合を「感染症」と呼んでいる。

伝染病はすべて感染症ですが、感染症の中には伝染しないものがあるので、感染症をすべて伝染病とは呼ばない。

感染した家畜から何らかの方法で、微生物が家畜へ伝染して同じ病気を起こすことを「伝染」と言い、この病気を「伝染病」と言う。

微生物が病気を引き起こすことはないので、上記の定義も間違った認識のもとに成り立っていますが、一般的に理解されている定義としてはこのようになります。英語では感染は infection、伝染は contagion、transmission となります。ところが、すべてではありませんが、英和辞書によっては infection の訳がまずいものも! たとえば goo 辞書:

infection
1. (
病気の) 伝染,感染;(空気・水などの) 汚染
1a. 伝染病,感染症
[以下省略]

先ほど引用した『ジーニアス英和辞典』でも…

infection
1. (水・空気・昆虫などによる) 伝染、感染
2. 伝染病

そして contagion の訳は goo 辞書では…

contagion
1. 《医学》 (病気の) 接触伝染;感染 (⇒infection)
[以下省略]

『ジーニアス英和辞典』では…

1. (病気の) 接触感染 (cf. infection)
[以下省略]

これには少なからず驚きました。英語から日本語に訳すという過程が、混乱を引き起こす原因の一つとなっているのかも知れません。

これだけでも、言葉の意味を正しく理解することがいかに重要かがわかります。言葉の定義に関しては、英語でも、たとえばメリアム・ウェブスターのオンラインの英英辞典で vaccine (ワクチン) の定義が書き換えられたとか、そういう操作が行われているのも事実です。知っているつもりで、自分の中であいまいに理解していると、そういう操作に引っかかりやすくなってしまうのかもしれません。もちろん、すべての言葉について細かく調べるのは不可能だと思います。でも、何か文章を読んでいるときでも、動画を見ているときでも、特にキーワードについては、自分がきちんと理解できているかをチェックしてみることも必要かもしれません。よい情報から間違った情報まで、いろんな情報が氾濫している状況で、何が正しいかを判断するのも簡単なことではありません。そんな中で、何かがおかしいと感じられる感性を養っていくことが重要だと思います。

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